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Webに関わるなら必ず知っておきたいニューエコノミー論とは?

皆さんこんにちは。突如「ニューエコノミー論とは?」と言われてもびっくりしますよね。
ニューエコノミーとは90年代後半一世を風靡した思想です。ご存知でしょうか?

簡単に言えば「ITによって世界の非対称性がなくなり、豊かに成長し続ける」という主張です。

実際のところ皆さんはどう思いますか?
情報通信技術がかなり普及した現代においても、
私達はまだITによって大きな変化がもたらされたようには感じないでしょう。

しかし、今私達は確かにこのニューエコノミー時代を生きています。
数十年後にはITが私達の生活を飲み込むでしょう。
そのときに生活水準は向上し、幸福度は高まるのでしょうか?
今はその問いに答えられるだけの根拠は持っていません。

しかし、今あえてニューエコノミーに着目する理由はどこにあるのか?
ココロファン設立の背景につながるニューエコノミー論ついてご紹介します。

 

ニューエコノミー論をわかりやすく紹介する

そもそもニューエコノミーとはどういう議論だったのでしょうか?
90年代に「ニューエコノミー(New Economy)」はアメリカで生まれました。

三井住友DSアセットマネジメントの提供する「わかりやすい用語集」によると、
ニューエコノミーとは『ITの発展で景気循環が消滅し、成長が永遠に続く新しい経済が生まれたとする考え方』です。

そう、現実にはそうならなかった。
ニューエコノミーはアメリカで多くの識者にもてはやされたのですが、
2001年のドットコムバブルで崩壊したITに対する期待論だったのです。

しかし、それは単にITをもてはやす理想論というわけではなく、
背景にしっかりとした経済学的な根拠がありました。

それはニューエコノミーにより情報通信(IT)により世界の情報の非対称性が崩れ、
経済のグローバル化が進むことで余剰在庫による景気変動がなくなるというロジックです。

実際には景気変動がなくなるなんてことはありませんでしたね。
その後、ITバブル崩壊やエンロン事件などが立て続けに大きな事件がアメリカ経済に影響を与え、
こうした主張はすぐに忘れ去られました。

しかし、実は現在世界は着実にニューエコノミーとして想像した世界に近づいているのです。
そのことを改めて強調したいと思ってこの記事を書いています。

 

ニューエコノミーのマクロ経済学的基礎

ニューエコノミーの経済的バックボーンを説明します。
在庫調整がなぜ景気変動につながるのかというと少し話は長くなります。

まずは簡単なマクロ経済学の解説と、実際の経済学における在庫について説明します。

まず、マクロ経済学における在庫投資という概念があります。
在庫を「一定期間中における生産量から販売量を除いたもの」と定義します。
生産量のほうが販売量より多いときは在庫投資がプラスになります。

そして、マクロ経済学において経済の規模を測る指標としてGDPというものがあります。
誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。

実はGDPには様々な資産が含まれています。これは民間と国すべてを合わせて考えます。
例えばダムや高速道路、ビルやPC、あなたの貯金やあなたの家なのです。
こうした資産の中に今回注目する在庫があります。

一般的には在庫というと売れ残りのイメージがありますが、
マクロ経済学においては先程も紹介したとおり、 一定期間内の生産量から販売量を除いたものを在庫といいます。

この在庫投資はどのくらいだと思いますか?
実は日本において在庫投資がGDPに占める割合は15%程度です。

日本のGDPはだいたい900兆円ですから135兆円、 情報通信産業の国内生産額と同じくらいです。
結構大きいですよね。 企業は利益を最大化するため、販売量よりも多めに生産します。
ときには生産が追いつかないほど売れることもありますが、ほとんどの商品では生産量のほうが大きくなります。

ですから市場において正確に生産量と販売量が一致することはありません。
その結果、企業の在庫投資は年ごとに大きく変動します。

変動が大きい経済指標であることから、マクロ経済学では以下のように考えられています。

在庫循環は比較的短期の景気変動の中心であり、
景気循環に関する書物の中で在庫循環は設備投資循環と並ぶ景気循環メカニズムとして必ず指摘されている。
景気分析の実務でも在庫率や在庫循環図の動きを観察することは基本中の基本である。

RIETI−在庫調整と景気循環のヴォラティリティ
https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0162.html

 

さて、なぜいまさらニューエコノミー論を持ち出したのかというと、
実は90年代後半にはまだ見えてこなかったITが現代になって、大きな力として発揮されるようになったからです。

今ではGAFAがあたかも悪の帝国のように扱われていますが、
Amazonがアメリカの株式市場に上場したのは95年のことです。

私達がAmazonの株価を見て3000ドルを超えたと大はしゃぎするずっと前に、
もう20年近く前にはAmazonとしての原型は出来上がっていたのです。
私達はその頃のAmazonの未来を予想できなかっただけなのです。

今世界で起こっていることの中心にいるもの、
こそが20年前に一度失望に変わったインターネットの力です。

実はマクロ経済的にも変化が観察されています。
日本において「GDPに占める在庫投資の割合」は年々小さくなっています。

日本だけではありません。 その他の多くの先進国でも在庫投資の変動は小さくなっています。
全世界的に景気変動は小さくなりつつあります。ニューエコノミー論はリバイバルしつつあるのです。

 

Webの本質価値がわかるニューエコノミー論10の条件

もう少し実用的にニューエコノミーについて考えてみましょう。

アメリカのギーク向け雑誌WIREDという雑誌の編集者だったケヴィン・ケリーは、
著書の中で「ニューエコノミー10の条件」というものを主張していました。

 

  1. スウォーム・パワーをつかめ 多数を結べば知性が生まれる
  2. 成功を呼ぶ方法 勝敗を分ける実力以外の要素
  3. 潤沢さが価値を生む 希少性に逃げ込んではならない
  4. 無料で売れ 気前のいい者が報われる
  5. ネットを肥やせ ルールではなくツールによる支配
  6. 自分の強みを捨てよ イノベーションは破壊から生まれる
  7. プレースからスペースへ 「中間」という広大な可能性
  8. フラックスこそ状態 不連続と不安定がビジネスを生む
  9. 関係性のテクノロジー 一生の顧客をつかむ仕組み
  10. 効率と生産性を捨てよ 無駄と非効率が機会を生む

 

今読んでみると「今どきのWebサービスを見て言ってるんでしょ?」という感じですが、
これらはTwitterやクラウドワークスが生まれてから考えたものではありません。

ベストセラーとなったクリス・アンダーソンの「FREE」よりも先に「無料で売れ!」と主張していたのです。
それがこの本です。

この「ニューエコノミー勝者の条件」はなんと1999年という大昔の本です。
表紙は確かに時代を感じさせるものの、 中身は全く色褪せるどころか輝きを増している一冊です。
ぜひ読んでみてください。

 

Web時代、暗記すべきニューエコノミー論の条件解説

スウォーム・パワーをつかめ

スウォーム(Swarm)というのは群れ、大勢という意味です。
クラウド(Crowd)と言い換えることができます。

そう、現代はITを使ったクラウドソーシングサービスが普及し、
フリーランサーとしての働き方も広がりつつあります。
大勢の力を借りることで大きなことを成し遂げることができる、
そして、大勢のユーザーが居るからこそ価値を持つのです。

成功を呼ぶ方法 勝敗を分ける実力以外の要素

私は「勝敗を分ける実力以外の要素」とはなんだろうと思いました。
これはケヴィン・ケリーによるとシェアであると言います。

ビジネスにおいてある製品を多く生産するのに価格コストは低減します。
これは規模の経済と言います。
ITの中心となるソフトウェア、アプリケーションは開発費は固定ですが、
ユーザー数により増大する費用増加は非常に少ないものです。

このような財は最初にある程度投資をして赤字だったとしても、
ユーザーシェアが広がることでそれがスタンダードとなり受け入れられると、
次第に損益分岐点を超えて黒字が積み重なります。

つまり、重要なのは収穫逓増が生まれるポイントまでシェアを伸ばすことなのです。

潤沢さが価値を生む 希少性に逃げ込んではならない

これまでビジネスをするということは「何かを売る」ということでした。
特に「ものを売る」ことを指していました。

第三次産業としてのサービス業と言っても、理髪店やマッサージ、医療など、
「誰かが誰かにサービスを売る」という物理的な関係性の上に売ることが成り立っていました。

しかし、ITは違います。 多くの人にソフトウェアを届けることができます。
それどころか、多くの人が使ってくれてこそ価値が生まれることが起こるのです。

例えばソーシャルネットワークを考えてみてください。
ネットワークを広げるほど利便性が高まるのは、フェイスブックが証明したことです。
同じようなSNSはたくさんFacebook以前にもありましたが、 爆発的な人気と使いやすさ、
経営面ではM&Aによる人気アプリの買収を通して、
世界一のシェアを誇るソーシャルネットワークサービスに成長しました。

ニューエコノミーにおいて何より大切なことは、
物理的限界のあるものを一部に売るのではなく広く多くの人に売るということです。

無料で売れ 気前のいい者が報われる

これまでの説明から言いたいことは分かりますね?
無料で多くの人に使ってもらうことを優先すべきです。

ビジネスを見たときに失敗するものと成功するものを見分けることは難しいですが、
そのビジネスがすぐに成立するものか、長期的にしか成立しないものかは分かります。

ビジネスモデルが確立している場合は既に顧客がお金を支払う前提があるので、
それに必要な経営資源を揃えることができればすぐにでも始めることができます。
そして、有料であるということは利益に繋がる道が描けます。

しかし、Webのビジネスではシェアを独占することが一つの経済価値になります。
そこでITの持っている力を最大限に活かすならば クリス・アンダーソンの「FREE」でも書かれているとおり、
真っ先にユーザーのココロをつかむことを優先すべきです。

これは弊社の社名にもなっているココロからファンを作ることが価値になるからです。
心からファンになったユーザーによってソフトウェアは利益を生み始め、
ユーザーコミュニティによってその価値はより一層高まります。

ネットを肥やせ ルールではなくツールによる支配

Webはメールや掲示板など個人や同人間のコミュニケーションの場として使われました。
次第にWeb上に開かれたマーケットと消費者が交流できるようになりました。
そして、WikipediaやFacebookのように図書館のように開かれた情報提供・交換の場として機能しています。

便利なものが増えれば増えるほど、使う人は増えるものです。
「Webを使え」と言われても使うメリットや面白さがなければ使いません。

インターネットは当初軍事通信システム、大学の通信研究用として使われていました。
それは、研究者個人にとって面白いからという理由でしたし、
核戦争が起こったときにダウンしない通信網を研究したかったからです。

だからこそ、彼らにはインターネットが一般人に使われるなどこれっぽっちも思いませんでした。
しかし、インターネットでコミュニケーションを取れることの面白さに目覚め始めると、
またたく間にユーザーが増えていきました。

自分の知っていることや興味のあることを自分のサーバーに公開し始めました。
結局人間はルールでは動きません。その道具を使う人はそれを使って達成したいことがあるのです。
彼らはその欲求を叶えるためにユーザーになります。
だから彼らが求めるものを提供することがWebをより豊かにします。

イノベーションは破壊から生まれる

クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」で印象的な、
「破壊的イノベーション」という言葉を思い出します。

しかし、この言葉ほど勘違いされているものも多くはないでしょう。
イノベーションは「破壊的な技術」「革新的な技術」を指しているのではありません。

最初はオモチャのように見えるプロダクトが、市場を侵食していくプロセスを指しています。
その時、既存の大手企業は反撃に出るでしょう。
しかし、クリステンセンによれば大手企業は組織内部の経路依存性などによって、
新興企業に対抗することはできません。そのメカニズムを「イノベーションのジレンマ」と名付けたのです。

ケヴィン・ケリーはどのような意図を持ってこの言葉を記したのかはわかりません。
しかし、ここでは単純に「新しい企業のおもちゃのようなプロダクトこそが破壊を生み出す」と捉えました。

「プレースからスペースへ」

Placeというのは場所という意味の言葉です。
一方でSpaceというのは「空いている場所」つまり空間を指しています。

私はこれを2次元の場所から、3次元の空間に変わっていくと捉えました。
これまでは場所がなければ、商売をすることが難しかったのですが、
今では「箱貸し」「面貸し」のように商売をする場所も気軽に借りることができます。

シェアリングが進んでいくのはビジネスが必ずしも物理的接触を伴わなくなりつつあるからです。
その人がいる空間、その人が営む空間、ある特定のコミュニティーがいる空間に価値があるのであって、
その場所は単なる入れ物としてのハコに過ぎないのです。

これをWeworkのようなシェアリングスペースの概念と捉えるのも正解でしょう。
WIERDでは「物理的空間の制約から離れて、バーチャルへ向かい、新たな仲介役になれ」と指摘しています。

フラックス(Flux)とは流動である

水の流れのように変動することがビジネスを生みます。
ビジネスが物理的空間の制約を超えて行くのであれば、
逆に捉えると誰もがアクセスできるインターネットという場所で競争することになります。

ここでは物理的なビジネスとは全く別の仕組みでユーザーを引きつける必要があります。
シェアこそが重要な武器になるのは、そうしなければユーザーを引き付け続けることが難しいからです。

その意味では、大手ITサービス企業は常に変化し続けなければ生き残ることができません。
ユーザーのために流動しつづけることが最強の武器になります。

一生の関係性をつかむ

これは「生涯価値」といえるでしょう。
顧客の生涯購入額を可能な限り獲得し続けることが大切です。

機会の活用を優先すべき

機会を恣意的に生み出すような環境を作ることはできるでしょうか?
ある環境では常にそこに出入りする人間がその文化を作り出しています。
機会をプラスに活用するためにそれ作り出す人間の行動を制限しないということは意識したいことです。

個人的にはスタートアップ企業のエコシステムは近年最適化される傾向が強まっているように思います。

「こうすれば成功する」
「こうすればユーザーを引き付けられる」

確かに、「リーン・スタートアップ」のような教科書ができたことで、
効果的に計測を行い学習を得られる枠組みは共有され始めたと感じています。

しかし、ここでの学習が例えば人間の弱い部分をうまくハックすることで時間を奪うとか、
お金をむしり取ることが最適化されるのであればそれは本当にあるべき機会と言えるのでしょうか。

スタートアップ企業には成功が求められています。
これはリターンを期待する投資家との関係上必然的に求められているものです。
しかし、効果的にプロダクトを作ることだけで良いのでしょうか?

経済的に測れない無駄と非効率の雑多な環境こそが本当のイノベーションを生み出します。
これこそがベンチャー投資の基本発想であり、Yコンビネータの理念です。

効率よくスタートアップ企業を作る方法が普及し始めている今もう一度振り返りたいことです。