複数の事業所に雇用される場合は
健康保険と年金の届け出が必要
疑問:社員が他の会社でも働くことになったときの人事労務手続きはどうしよう?
解答:2つ以上の会社で勤務するときは健康保険や年金の支払いを報酬額に応じて按分して支払うことになります。
だから、必ず健康保険・年金事務所に届け出が必要なんですよ。
これまでは一つの会社に所属して給与をもらっているというケースがほとんどでした。
フリーランサーはあくまで個人事業主であって、
2つ以上の会社に務めるということはまずありませんでした。
しかし、今は副業・複業の時代。
一つの会社だけに所属することなく、別の会社でも能力を発揮される方が増えています。
そんなときに気になるのは、報酬と密接に関わっている社会保険についての制度です。
今回は2箇所の法人に勤務する社員を例にとって、二以上事務所勤務届についてご紹介します!
健康保険と年金はセットではないことに注意!
一つの会社に務めているだけであれば人事労務の担当者の方が丁寧に教えてくれたり、
自動的に手続きを完了させてくれるので全く気に留めることもない社会保険の手続きですが、
副業で複数の会社に務めると「確かに手続き必要だよね」と気付かされます。
実は「二以上事務所勤務被保険者届」の手続きは難しくありません。
日本年金機構のWebページを見てみましょう。
- 被保険者が同時に複数(2か所以上)の適用事業所に使用されることにより、
管轄する年金事務所または保険者が複数となる場合は、
被保険者が届出を行い、年金事務所または保険者のいずれかを選択します。 - 届出の結果、選択した事業所を管轄する年金事務所(または健康保険組合)が
当該被保険者に関する事務を行うこととなります。
なお、健康保険組合を選択した場合であっても厚生年金保険の事務は年金事務所が行います。
ポイント
・複数の事業所で働く場合届出が必要
・主とする選択事務所を決め、そこを管轄する年金機構の事務センターに届出
・協会けんぽ以外の場合、健康保険組合も選択し組合に届出
あとは健康保険組合と年金事務所が処理をしてくれます。
具体的には選択事務所が保険料を按分する計算をして納付すべき金額を事業主に通知されます。
そうして決められた金額を会社の労務担当の方が給与計算の際に反映します。
(実は加入者となる労働者にとってはただそれだけなのですが、
労務担当者と経理担当者にとっては実務的には複雑になります…これについてはまた別の機会に)
資格取得届も同様に提出する必要がある
「今まで加入していた健康保険組合・年金だから、そこに二以上事務所勤務届を出せばOK」
私はそう考えておりましたが、実際は違いますので注意してください。
選択する方の健康保険組合や年金事務所に改めて「資格取得届」も同時に提出する必要があります。
これは健康保険に関しても、年金に関しても同様です。
よって、以下でも説明しているように選択する方には必ず、
「二以上事務所勤務届」と「資格取得届」は両方とも提出しましょう。
被保険者所属選択・二以上事業所勤務届の提出先
この二以上事務所勤務届はこちらからダウンロードすることができます。
記入例のPDFも掲載されていますのでこちらを参考にしてみましょう。
まず、どちらの事務所も健康保険が全国健康保険協会の場合は1枚のみで申請ができます。
全国健康保険協会(協会けんぽ)と年金事務所は手続きは一体となって運営されているからです。
しかし、一方が健康保険組合の場合は少し複雑です。
例えば大手企業の健康保険組合や業界の健康保険組合に加入しており、
もう片方がその他の健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、
実は健康保険組合の方にも届出が必要です。
つまり2枚用意し健康保険組合と年金事務所の両方を選択して提出する必要があります。
簡単に場合分けして考えると以下の通りとなります。
所属する事業所がどちらも協会けんぽの場合 | 主とする選択事務所を決める。
選択事務所を管轄する年金機構の事務センター宛に届出 |
所属する事業所の一方が協会けんぽで、 もう一方が健康保険組合の場合 |
主とする選択事務所を決める。
協会けんぽに加入する事務所を主とする場合は、選択事務所を管轄する年金機構の事務センター宛に届出 健康保険組合のある事務所を選択事務所とする場合は、健康保険に関しては選択事務所の健康保険組合に、年金に関しては選択事務所管轄の年金機構事務センター宛に年金の届出 |
所属する事務所の両方が健康保険組合の場合 | 主とする選択事務所を決める。
健康保険に関しては選択事務所の健康保険組合に、年金に関しては選択事務所管轄の年金機構事務センター宛に年金の届出 |
二以上事務所勤務届の記載方法
さて、実際に記載していきましょう!
まず、忘れてはいけないのはマイナンバーや年金番号です。
昨今はマイナンバーで手続きを行うことが増えてきてはいますが、
マイナンバーの場合は確認書類としてマイナンバーカードのコピーを添付する必要がありますのでご注意ください。
「選択事務所」には主とする事務所を記載します。
事業所整理番号、被保険者整理番号はお勤めの事務所の人事労務担当者に確認してください。
「非選択事務所」には従とする事務所を記載します。
同様に事務所整理番号は人事労務担当者が把握していますが、
被保険者整理番号はまだ入社手続き中で採番されていないこともありますので空欄で構いません。
「被保険者資格取得得喪年月日」は入社日、被用者になった日を記載します。
ここで役員や事業主など事務所を立ち上げた後、報酬を得ておらず、
今回初めて報酬が発生する場合は社会保険資格取得日は報酬が発生する月となります。
一般的に副業の場合、選択事務所の報酬月額が非選択事務所の報酬よりも高い場合が多いと思いますが、
必ずしも選択事務所の月額報酬より安くないと手続きが行われないということにはなっていないようです。
令和2年2月より二以上事務所勤務被保険者届出は事務センター宛に行う
これまで、全国健康保険協会(協会けんぽ)と年金に関して管轄する年金事務所に提出していたのですが、
令和2年2月より、この書類の提出先は管轄する事務センターに一本化されることになりました。
もちろん、健康保険について選択事務所の健康保険組合が協会けんぽではない場合は、
選択事務所の健康保険組合宛にこれまでどおり別途1通提出しましょう。
二以上事務所勤務者の非選択事務所も算定基礎届がある
二以上事務所勤務者の在籍する非選択事務所についても、
当然に報酬月額算定届を提出する必要があります。
ただし、既に二以上事務所勤務になっていない場合は提出不要です。
複数の事務所で働く場合の社会保険手続きまとめ
今回は従業員が2つ以上の事務所に被用者となった場合に行う、
二以上事務所勤務被保険者届の書き方についてご紹介しました。
こうして説明していくと意外と手続きする方(労務担当者)はちょっと複雑ですね。
大手の健康保険組合や協会けんぽの担当者は意外と円滑に処理してくれますが、
提出する必要がある資料が不足していると確認に時間がかかります。
労働者側も「副業なので社会保険は加入しない」というのではなく、
届出を出すことで年金ももらえる金額が増えます。
なにより法律に違反することになりますのできちんと手続きをしましょう!