かねてから「ITは手段であって目的ではない」と言ってきました。
ただ、人間である以上は道具を選ぶことが大切だとも言えます。
自動車整備士の方が100均の工具を仕事で使うことはないだろうし、
フロントエンドエンジニアがIPadでコーディングすることはないのです。
なのに世の中では単に安いからと言って100均の工具を支給したり、
最先端だからといって全員にIPad Proを支給するようなことをすることがあります。
ITはツールですが、ツールはその仕事にあったものを選ぶ必要があります。
弘法筆を選ばずといいますが、流石に想定用途が異なるモノを渡しても、
どの人も必要なツールが違いますから、ミスマッチが起こっている限り、
どんなに新しいことをしていても良くなることはありません。
便利だから良いというわけではない
私の前の会社では全社員にiPhoneが支給されていました。
業務の電話はかけ放題、インターネットし放題、かっこいいiPhoneが貸してもらえます。
しかし、持ち始めると全くもって要らないと思うようになりました。
第1にいつでも携帯を持っていることが分かっているので電話がかかってくる。
第2にメールがいつでも確認できるので気になってしまう。
第3に家でも仕事ができるので仕事を無理してやってしまう。
仕事のためのツールとして会社は社員に持たせたほうが良かろうと思ったのでしょうが、
逆に仕事のことが嫌いになりました。
私は社用携帯を会社に置いて帰るようになりました。
確かに電話が好きな人もいらっしゃいますが、
基本的には急ぎのようではない限りメールでやり取りしていましたし、
正直それでも十分仕事ができていたわけです。
その仕事に必要なツールを選ぶことは難しい
ITツールにも営業の質が高かったりサポートの手厚い良い製品というのがあります。
これはITに本当に求められている役割が分かっているからです。
OracleやSalesforceのようにCEOがマーケティングの専門家であるIT企業はそこを分かっています。
彼らと同じような製品は技術系のCEOが率いる様々なベンチャー企業が出していましたが、
結果的にデータベースはOracle、CMSはSalesforceが世界的に独壇場となっています。
もちろん、モノがへんちくりんなのにマーケティングで売れるというわけではありません。
新しいサービスや技術なので当然に製品もある程度高度であることは前提にあるものの、
人間が使うものなので使い人に優しいセールスができる会社が生き残るということです。
これは、使う人が何のために使うのかよく分かってないケースが多いからです。
よくわからないのに高性能だからといって導入すると、
結果的によくわからない人たちがいろいろな方向から意見を言って導入されていまい、
人間性のない使いにくいシステムが完成してしまいます。
OracleやSalesforceのセールスは単に売るのが上手いのではなくそこを一緒に考えたり、
ユーザーコミュニティを作ったり、顧客と具体的な形を考えてくれるから売れていったのです。
当たり前の事かもしれませんが、既存の業務がどのように課題を抱えていて、
そのシステムがどのようにその課題を解決できるのか?
そして、現場で運用できるのか、実際に運用のデモを利用してもらったのか?
こうした丁寧な対話がないITは本当に使われなくなります。
特に頭のいい人が考えるシステムで忘れがちなのは実際に使う人の意見です。
そのシステムが本当に使えるもの、誰かの業務負担が軽減されたりするのなら、
ほとんどの人は喜んで協力的に建設的意見をくれます。
こうした、人が使うツールの本当の目的に対して明確に答えが出せている状態でなければ、
どれだけ小手先で自社の業務に合わせて作り込んだとしても結果的に無駄になります。
技術とビジネスの視点両方持つことが大切な理由
しかし、なぜものすごく時間をかけてソフトウェアを比較検討したのに上手く行かないのか。
それは必要なツールを選択することは簡単そうでとても難しいことだからです。
まず、多くの場合それを使う目的を定めることができていないということです。
自動車整備であれば使う工具は信頼の置けるメーカーのセットを購入すれば良いとすぐわかります。
自動車を傷つけずに、整備士さんが使いやすい工具というのはある程度決まっているからです。
つまり、道具を使う目的が決まっているので比較的選ぶのは簡単です。
しかし、ITは道具ではありますが何のために使うのかが曖昧になりやすいと言えます。
「社内のコミュニケーションを活性化させるために社内SNSを導入しよう!」と言っても、
なぜ社内のコミュニケーションを活性化させる必要があるのか?
なぜ社内のコミュニケーションを活性化させる手段としてSNSなのか?
といいった問いはあまり深く検討されずに「流行っているから」「他社が導入したから」など、
全く考えずに導入してしまうケースが良く見られます。
また、広く検討しすぎて一番優先して解決したい課題がぼやけてしまうこともあります。
営業効率を高めるために検討したシステムを検討しているうちに、
売上や請求管理機能を持たせることに対応していないことを上司が咎めて、
最終的に営業管理システムとしては使いにくいが多機能なものを導入したりします。
それなら、一番解決したかった課題は売上や請求管理が煩雑ということで、
導入検討をすべきなのは最初からそちらのシステムだったなのではないでしょうか?
また、ビジネス理解があるアーリーアダプター的人材も多くありません。
技術に強い人は人から意見をもらうことが苦手だったり、
逆に人との関わりが得意な人は技術に弱かったりします。
エンジニアやコンサルタントに多い合理的に効率化や最適化のための方法を考えすぎてしまうと、
相手がまだ十分に腑に落ちていないために提案を拒絶されることがあります。
しかし、上手く人となりを観察できて、
会社の強みや業務への深い理解とあるべき姿が明確に描ける人であれば、
クライアントの不安や初めて今抱えている重要な解決すべき問題点に気づくことができます。
結局ITに詳しいから、システムの導入がうまくいくという話ではないのです。
エンジニアからキャリアをスタートしても、
コーポレートや営業からキャリアをスタートしても良いと思いますし、
強みはどちらかに置いて良いのですが、エンジニアはビジネス側の経験、
コーポレートや営業はエンジニア側の経験をしていくことがとっても大切です。
それを一つの会社の中で経験して初めてITをツールとして活用できる人ができるからです。
さらに経営者を説得できるだけの論理性やプレゼン能力、
当事者意識が伝わってくる熱意があって、本当に価値ある経営層人材となると考えています。
現代は経営の科学化、Data basedな意思決定が求められています。
そして経営学やMBAの発展や経営についての共通理解が深まるにつれて、
客観的な根拠を受け入れるだけの理解をもっている経営者も増えているように感じます。
ココロファンでこうした話題にちょっとでも興味が湧いた人がいれば、
将来必ず引く手あまたな人材に変えてみせると密かに策略を練っている次第であります。