メニュー 閉じる

CHI勉強会2019 Digital Consumption

本日、東京大学工学部2号館で開催されたCHI勉強会2019にて、
No123「Digital Consumption」のセッションを紹介させていただきました。

発表用スライドはこちらです。

「デジタル消費」というセッションを選んだのは、
人間の生活がデジタル環境にどっぷりと浸かりつつある中で、
最先端の研究では何がわかり、何がわかってないかを知りたかったからです。

実は私の一番最初の関心は「アクセシビリティ」でした。
そこでちょっとだけCHIに関心を持ったきっかけについて書きたいと思います。

私とCHIの出会い

昨年、明治大学中野キャンパスで開催されたCHI勉強会2018に続いての参加で、
学生ではないながらも一介の興味を持つ人間として図々しくも参加してます。

私はもともとパソコンが大好きですが、仕事にすることはありませんでした。
学部でも大学院でもコンピュータとは異なるところにいましたが、
CHIに興味を持ったのは障害者支援技術に関心を持ったからです。

起業をしようと思ったときに、社会に役に立ちたいという思いと、
身近に障害を持つ人がいたことから、彼らの悩みを少しでも感じたい。
そして、テクノロジーでなにか橋渡しすることができたら良いなと考えました。

それが、福祉工学でありなかでもコンピュータを用いて、
よりアクセシビリティ向上につながり、障害者が生きやすい社会を作ること。
それがコンピューターと人間という枠組みで研究するCHIとの出会いでした。

ビジネスとアクセシビリティの相克

テクノロジーを使って障害者が行きやすい社会をつくりたい。
思いがふつふつと湧いてきて、今いる会社ではそれができないと考えました。

そこで、私は会社を辞めるという決断をしました。
今思えば無謀だという周囲の声も最もなことだと思います。

当初はVCなどに資金を募る計画でしたが、
偶然募集を見て、有期雇用という形で支援していただけることになりました。

そこから実際にアイデアを実装してみたり、PMFを検証してみました。
確かに実際のユーザーとなりうる障害者の方々は、「それはいい!」
「それができたら使いたい!」と言ってくれました。

しかし、そこからが長い道のりでした。
実際に動くものを作るということすら自分ではあまりうまくできませんでした。
ましてや世界でも誰も成し遂げていないことを実装するのは無理でした。

さらに、深刻なのは「使いたい!」とは言ってくれたものの、
実際にいくらであれば購入するかというと、なんとも言ってくれないのです。
無料であれば使いたいかもしれないが、お金を出すほどではない。
つまるところは、必要としていないのです。

障害というマイノリティだからこそ、大多数のユーザーを追い求める、
ビジネスとの距離が大きすぎるということに気づきました。

収益を上げ続けて社員の給与を支払うことが会社存続の最低条件ですが、
マイノリティ向けのプロダクトは少数のユーザーだけしか使いません。
一人の社員を雇うことすら毎月100万円近い費用がかかることを考えると、
いくら「よい」プロダクトだからといってその開発費用や営業費用を賄えない。

そんな当たり前の事実に気づかなかったのは、自分で言うのもなんですが、
自分の興味や良心、そして周囲の障害を持つ友人らを助けたいという、
ただそれだけに突き動かされてきただけで、
ビジネスの世界においてはたんなる理想主義者、
甘ちゃんだったことを認識させられました。

障害の緩和はすべての人に優しい社会を作るはず

「障害の社会モデル」という言葉があります。
これは障害を障害たらしめているのは、
障害を持ちながら生きることを拒否している社会であるという考え方です。

障害はそれ自体を完全に回復できないからこそ障害となります。
健常者中心の社会の中で、様々な障害を抱える人はとても生きづらい。
自分は大丈夫だと思っても、とつぜん病気や怪我をしたときの不自由さは、
自分が体験しないとなかなかわからないものです。

その意味では自分も障害者の気持ちは全くわからない。
できることは彼らの話をできるかぎり聞き届けること。
そこからテクノロジーでなにかサポートできることがないかを考えることです。

自分が1年間考えてもうひとつ気づいたことがあります。
障害者にとって便利なものは、実は健常者にとっても便利であるということ。
特に聴覚障害者に大きく影響するコミュニケーションという文脈においては、

「情報を正確に即座に受け取ること」
「他の人と情報を交換すること」

この2つが重要な課題になります。
前者は「情報入手」、一方的なコミュニケーションを円滑にすることが重要、
後者は「情報交換」、双方的なコミュニケーションを円滑にすることが重要。

例えば駅の電光掲示板が増えることは「情報入手」を容易にします。
LINEのユーザビリティやユーザーが増えることは「情報交換」を容易にします。

こうして考えると、聴覚障害者が駅でアナウンスが聞こえなくても、
電光掲示板が増えて情報量も増え、迅速に情報入手ができればあまり困らない。
LINEが普及して友人や支援者、先生などと簡単にコミュニケーションがとれると、
孤独に苛まれることが少しは緩和できる。

これは障害の解決には程遠いですが障害を少しだけ緩和することになります。
それと同時に(というより主目的は健常者ですが)障害者以外も、
とても便利な社会にすることができるということにつながるのです。

だからこそ、イノベーション、新しいビジネスを進めていくことが、
障害があっても社会に溶け込みやすくなる社会を作ることにつながるのです。